2019/12/12

ミケーネ文明/グーラ遺跡 Gla


塁壁に囲まれたグーラ遺跡

位置 中部ギリシア・ボイオティア地方/アテネ~北西75km・テーベ~北北西22km
GPS グーラ遺跡: 38°29’00” N 23°10’53” E/標高120m


グーラ遺跡の発掘

ミケーネ様式の大型トロス式墳墓が残るオルコメノス遺跡 Orchomenos の東方18km、グーラ遺跡(Gla グラ)は残されている。1894年にデ・リッデル De Ridder が最初の発掘調査を行い、その後は1950年代~1980年代に複数回の発掘ミッションが実施されている。

ミケーネ文明・オルコメノス遺跡・トロス式墳墓 Mycenaean Tholos Tomb, Orchomenos/©legend ej
オルコメノス遺跡・トロス式墳墓
トロス内部~入口
ボイオティア地方/1982年



サイトの規模

グーラ遺跡は長い年月の経過で石材が雨水で浸食された塁壁遺構に最大の特徴を見て取れる。周囲は広大な農耕地、その中にある平坦な「小島」のような遺跡は、ぐるりと一周する塁壁遺構の外側を基準にするなら、東西に最大900m、南北に約625mの区域である。

ミケーネ文明・グーラ遺跡/Google Earth
グーラ遺跡/ボイオティア地方
地図情報:Google Earth⇒テキスト挿入

ミケーネ文明・ミケーネ宮殿遺跡&周辺遺跡 地図 Map of Mycenae Area/©legend ej
ミケーネ宮殿遺跡&周辺遺跡 地図
ペロポネソス・アルゴス地方
作図:legend ej

ミノア文明&ミケーネ文明 編年表/©legend ej
クレタ島ミノア文明&ギリシア本土ミケーネ文明 編年表
・ミノア文明・「旧宮殿時代」: 紀元前1900年~前1625年
・ミノア文明・「新宮殿時代」: 紀元前1625年~前1375年
ミケーネ文明(時代):  後期ヘラディック文明 LH期
作図:legend ej

石灰岩質の平坦な岩の丘を占める遺跡区域は、周囲の耕作地レベルから10m~最大35mの高さにある。後期ヘラディックIIIB期・紀元前13世紀に遡るとされるグーラ遺跡の塁壁の平面視野では、ペロポネソス・アルゴス地方のミケーネ宮殿遺跡の平面プランに似た、外周がややゴツゴツとした「三角形」のような敷地を占めていると言える。ただ、面積的にはミケーネ宮殿遺跡のそれより遥かに広い。

ミケーネ文明・グーラ遺跡・城壁 Mycenaean Site, Gla/©legend ej
グーラ遺跡・塁壁遺構
北東入口~標高の高い「宮殿区域」
ボイオティア地方/1987年

ただし、アルゴス地方の世界遺産ミケーネ宮殿遺跡やティリンス宮殿遺跡もかなり崩壊が進んでいるが、グーラ遺跡の塁壁はそれらに比べさらに破壊が進んでいる。

世界遺産/ミケーネ文明・ミケーネ宮殿遺跡・ライオン門 Lion Gate, Mycenae Palace/©legend ej
世界遺産/ミケーネ宮殿遺跡・「ライオン門」と分厚い城壁
ペロポネソス・アルゴス地方/1982年

世界遺産/ティリンス宮殿遺跡・傾斜路ランプ~北入口 Ramp & North Gate, Tiryns Palace/©legend ej
世界遺産/ティリンス宮殿遺跡・傾斜路ランプ~北入口
ペロポネソス・アルゴス地方/1982年

幾らかの研究者はグーラの「宮殿」は、4か所の城門を含め、紀元前1350年~前1300年頃に造られたと推測している。紀元前1250年頃、アルゴス地方のティリンス宮殿に致命的な破壊をもたらした大きな地震と火災で、ミケーネ文明の諸宮殿や邸宅などが崩壊していることから、グーラの「宮殿」も同じ時期に崩壊した可能性が高いだろう。
ただ、遺跡からは多くの目ぼしい対象物は発見されていないが、幾らかの陶器が発見され、年代的には紀元前1400年~前1100年頃に属すると断定されている。このことから、「宮殿」の崩壊後もある程度の期間、最大で150年間、城壁内部で何らか継続的な「居住」が行われていたとも判断できる。

古代の都市国家であったテーベ Thive の北西には、ギリシア最大のコパイス湖 Lake Copais が存在し、かつてグーラはその北東端に位置していた。
コパイス湖は19世紀後半の大規模な干拓事業で排水され、今日その名称は広大な農耕地・「コパイダ平野」へと変更された。現在、広大な農耕地になっているグーラ遺跡周囲の平原は、ミケーネ時代にはコパイス湖の湖畔、または湖畔に広がる湿地帯であったと考えられている。

アルゴス地方のティリンス宮殿遺跡の近郊アギオス・アドリアノス Agios Adrianos 地区では、ミケーネ時代に川を堰き止めて、取水ダムとティリンス宮殿へ流れる運河を建設したことが分かっている。それとは逆の水利対策と言えるか、おそらくグーラの「宮殿」に居住した歴代統治者に課せられた最大の仕事は、湖や湿地帯の干拓事業であったであろう。
干拓によって確保される農耕地の拡大は、王国経済の安定と発展を約束する最も重要な要素であり、調査ではグーラ遺跡の北方1km付近でミケーネ時代の排水路の痕跡が確認されている。

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サイトの遺構

高さこそ低いが遠目には東西幅1kmの目立った小島、あるいは地質学のテーブルマウンテンのようなグーラ遺跡は相当に広大な面積を占めている。ミケーネ様式の強固な累壁で囲まれた平坦な丘全体の崩壊が進み、明確ではないが、間違いなく「宮殿区域」とその付属の「」が展開されていた、と推測したい。
塁壁の厚さはランダム形容で2.5m~最大5.5mを確認でき、発掘情報では塁壁の全長は約2,700mと計測されている。総延長で約900mのミケーネ宮殿の城壁と比較する時、如何にグーラの「宮殿区域」と「街」を含む、塁壁内の面積が広大であるか理解できる。

城門(入口)は西・北東・南東、そして南側の合計4か所である。ミケーネ時代には、おそらく南方800mの距離にある標高差100mの半島のような丘の麓から「連絡道路」が延びていた可能性があり、このため「街」への正式な入城門は南入口であった、と判断されている。
南入口では、農耕地レベルから少し昇る感じの階段があり、次に最初のドアー口が、さらに「街」への内部ドアー口がある。おおよそ6mある二つのドアー口間の空所の左右には、南北5m弱・東西3m弱の対称構造の、おそらく「警備室」があった。
ただし、残されている遺構を見た限りの経験論の判断では、最も明確に切石ブロックが残されているのは堅固な構造の北東入口かもしれない。

塁壁に囲まれた遺跡のほぼ中央付近にはわずかな斜面を伴った「アゴラ区域 Agora」と呼ばれる、おそらく店舗や工房などの南北に連なる建物遺構が残り、「アゴラ」の北側~北塁壁までが、この遺跡で最も標高の高い場所である「宮殿区域」となる。
「宮殿区域」の建物遺構は石灰岩の岩盤の上部に残され、南方から見たならギリシア語・「ガンマ・Γ」が左右反転した形容、あるいは北方から眺めるなら英語・「L」の字形で確認できる。
「宮殿」の北翼部は東西に延び約70m、東翼部は南北で約65m、二つの翼部に挟まれた空間が「西中庭」に相当し、北翼西端~東翼南端の距離がおおよそ60mとなり、西中庭は東西30mx南北35mほどの三角形を成していたのかもしれない。

広い塁壁内は雑草が支配する広い荒れ地の感があり、さらに岩盤上に確認できる「L字型・宮殿区域」の遺構さえも明確とは言えず、アルゴス地方のミケーネ宮殿遺跡やティリンス宮殿遺跡などに残されている、ミケーネ時代の宮殿建築の顕著な特徴である「三部屋続き」の構造様式、「メガロン形式 Megaron Complex」の王の執務室(居室)、あるいは広い中央中庭や複雑構造の聖所、整然とした工房群なども確定が難しい。

ただ発掘レポートでは、「宮殿区域」からは大小20を数える部屋、そして平行して走る長い二重通廊や短い通路などが確認され、北翼部の最大スペースの部屋は23.5mx8.8m、さらに東翼部では最大10mx6m規模のかなり大きな部屋が存在したことを示している。


二度訪ねたグーラ遺跡
訪ねた1987年と1993年、各3時間ほどの表面チェックを行ったが、特に南門~「L字型・宮殿区域」との間、「アゴラ・街」に想定できる区域では、破断の陶器片が無数に散乱していた。
もしグーラの塁壁内に「L字型・宮殿」が存在したのなら、西方18km、オルコメノスの大型トロス式墳墓の被葬者は、ほとんど間違いなく、この「宮殿」に住んだ統治者・王であった、と私は確信したい。

なお、グーラは別名で「グラ」とも呼ばれている。また、グーラ遺跡と同じような分厚い塁壁が残るのは、アルゴス地方のミケーネ宮殿遺跡から少し南方のミデア遺跡 Midea である。

ミケーネ文明・ミデア遺跡 Mycenaean Site, Midea/©legend ej
ミデア遺跡・塁壁遺構
左遠方=デンドラ村(王家の墳墓&横穴墓遺跡)
ペロポネソス・アルゴス地方/1987年

GPS ミデア遺跡: 37°38′59″N 22°50′31″E/標高250m

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